戸田蓉子|漆アーティスト
漆の最も美しく神々しい瞬間は、未だ液状の漆が塗られるときだとわたしは思う。人毛の刷毛の毛先から、黒々とした艶めかしい髪の毛が無数に筋を引いていくような、黒漆が塗られる瞬間。そして、面が今しも黒に変えられたばかりの一瞬にだけ出会える、吸い込まれどこまでも落ちてゆきそうなクラクラする黒。まだ、生き物の生々しさが漂っている頃。乾いてしまうと、もうそのドキドキするような生々しさは見られない。動から静に移るように、静かになる。それはまたそれ、乾きあがったばかりは「わたし、生まれたてなんです」と言わんばかりの、赤ちゃんの肌のような澄み切った美しさに満ちているのだけれど。

そこから半年ほどかけて、完全に漆は硬化していく。そうなると、もう、大人になってしまうような、そんな気がわたしにはする。こうしてみると、未だ漆が液体の状態というのは、エネルギーや養分がどろどろのカオスなのかもしれない。

古より人の精神に寄り添ってきた漆が垣間見せてくれる美は、実に豊かだ。時にわたしは、切なくなったり陶酔したり痺れたり思わず目を見開いたり頭をガーンと殴られたり胸が詰まったり倒れそうになったりそして涙が出たり。わたしの身体は、感情の渦という快感にのみ込まれる。
そんな漆の生きている姿を一人でも多くの方に伝えてゆきたくて、わたしは漆を自身の仕える事とした。その表現方法は、立体、平面、空間、時間、概念と多面性を伴って
※Urushi₋media
『media』の語源はラテン語の『medium』であり、「中間」「介在」「媒介する者」という意味を持つ。

